赤間硯 写真提供:山口県観光連盟

赤間硯 アカマスズリ

採石から彫刻までこだわって作られる高級硯
実用性と美術性の高さを併せ持つ名品

Description / 特徴・産地

赤間硯とは?

赤間硯(あかますずり)は、山口県下関市や宇部市周辺で作られている硯です。赤間石という硯に適した石が原材料で、赤間硯を用いれば墨を細かく磨ることができ、発色も伸びもよい墨汁ができると評されています。
赤間石の特徴は、緻密な石質にくわえて、墨をするために必要な石英(せきえい)や鉄分を多く含んでいることです。赤間石は粘り気が強いため彫刻がしやすく、原石を活かした野面(のづら)硯に加えて、美しい彫刻を施した彫刻硯や蓋つきの硯などもあります。
赤間硯は、職人自身が採石を行うことでも知られています。赤間石はほかの硯石と比べても乾燥しやすいため、露天掘りではなく、坑内に入って採石を行わなければなりません。職人には石を見極める目に加えて、火薬を取り扱う技術も必要とされ、採石ができるようになるためにも10年以上の歳月がかかるとされています。
職人の技術が息づく、実用的でありながら、美術的な価値も高い硯です。

History / 歴史

赤間硯 - 歴史 写真提供:山口県観光連盟

赤間硯の歴史は古く、鎌倉時代には製造が始まっていました。鎌倉にある鶴岡八幡宮には源頼朝公が奉納したとされる赤間硯が残っており、800年以上の歴史があります。現在の下関市にあたる赤間関で製造が開始されたことが、赤間硯の名前の由来です。
江戸時代に入ると赤間石の採掘は長州藩の許可が必要となり、簡単には手に入らない貴重な品になったため、藩主への贈答用に用いられていました。
明治時代に入ると識字率の向上と相まって、記録用の手段として書道は普及し、赤間硯の生産も盛んになります。この頃は、赤間硯の職人も200名から300名ほど存在していたと言われています。現在は当時に比べると職人の数は大幅に減っていますが、昔からの伝統が今なお守られています。

General Production Process / 制作工程

赤間硯 - 制作工程 写真提供:山口県観光連盟

  1. 1.採石 硯に適した赤間石を見極め、採石します。赤間石は一般的に知られている赤みを帯びた紫雲石のほかにも、4種類の石があり、それぞれに石質が異なることが特徴です。赤間石は厚さ10mほどの層がありますが、赤間硯に使用できるのはそのうち1m程度の層に含まれる石だけのエリアとなります。

    火薬や電動ドリルなどを使って採石された赤間石は、乾燥に弱いため、採石後は適当な湿度を保った暗所に一定期間保管されます。その後、制作する硯の大きさに合わせて、ハンマーと割り矢で板状にします。
  2. 2.縁立て(ふちたて) 「縁立て」とは、丸や四角など硯の大まかな形を決め、内側は3㎜ほどの深さに切り込む作業です。墨をするための丘(おか)と、墨汁がたまる部分である海(うみ)の位置も決定します。
    板状になった赤間石は丸ノコを使って硯の大きさに型取りし、「タガネ」という金属板を切断するのに適した工具を用いて形を整えます。その後、大ノミを使って硯の裏と表が平らになるように削り、砂や水などを用いて表面を滑らかにする「じぎり」という工程を経てから「縁立て」を行います。
  3. 3.荒削り 大きなノミを使って、縁立てした丘(おか)と海(うみ)を荒く削り、硯の内径を形づくります。ノミの柄を肩に押し当て、ノミに上半身の力をかけながら削っていく作業であるため、力が必要です。
  4. 4.仕上げ彫り 彫刻硯や蓋付硯などは、表面に精緻な彫刻を施します。赤間硯の彫刻には、形を浮かせる「浮かし彫り」、繊細な毛のような線を出す「毛彫り」、タガネを使って石の自然な風合いを出す「たたき彫り」などの伝統的な技法があります。細かな彫刻を施す硯は、制作に数十日以上費やされる作品もあります。
    さらに、7~8種類の小さなノミを用いて「内彫り」を行います。硯制作では、丘(おか)と海(うみ)をつなぐ境目のハトと呼ばれる曲線が、もっとも難しい部分です。幅2ミリから10ミリ程度のノミを何本も使い分けて彫り進めていきます。
  5. 5.磨き 硯を彫り終わったら、ノミ跡などを磨きます。荒い砥石で滑らかにしたあと、サンドペーパーで細かい部分まで仕上げる工程です。ただし、磨きすぎると墨がすりにくくなる場合があるため、最後は目立て石で磨きます。墨が触れる丘(おか)と海(うみ)以外の部分に風化防止のための漆を塗り、均一に広がるように布で薄く伸ばせば、赤間硯の完成です。

Leading Ateliers / 代表的な製造元

赤間関硯 玉弘堂

楠製硯

Where to Buy & More Information / 関連施設情報

赤間硯の里

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