奈良墨

奈良墨 ナラスミ

古来の香りを今に伝える
職人技が光る漆黒の墨

Description / 特徴・産地

奈良墨とは?

奈良墨(ならすみ)とは、奈良県奈良市で生産されている墨です。三重県の鈴鹿墨に続き、墨としては2番目に伝統工芸品に指定されました。
墨には松脂を燃やしてつくる「松煙墨(しょうえんぼく)」と、菜種や胡麻、桐の油を燃やしてつくる「油煙墨(ゆえんぼく)」とがあり、奈良墨は油煙墨に分類されます。
奈良墨の制作工程には墨職人の繊細な技術が必要なため機械化できる作業がなく、今もなお手作業で行われています。
成型には「手にぎり成型」や木型やヘチマの皮等を使った「型入れ成型」といった方法が用いられ、奈良墨ならではの美しい形を生み出しています。

History / 歴史

奈良墨 - 歴史

日本書記巻第二十二にある記述から、610年には、墨が中国や朝鮮から日本へ伝わったと考えられています。
中でも奈良墨は、大同元年(806年)に遣唐使として唐へ行った空海が筆とともにその製法を持ち帰り、興福寺二諦坊(にたいぼう)で作ったのが始まりとされます。平安時代、日本各地で行われていた墨作りは、時代の変遷とともに次第に途絶えていく一方、奈良では継続して寺社を中心に作り続けられました。
特に藤原氏の氏寺として建立された興福寺では、写経や経典の記述に使う墨の生産を一手に担っていました。興福寺ニ諦坊に造墨手を数多く抱え、かなりの量を作っていたと考えられています。
その後、奈良墨がさらに名を馳せたのは、織田信長、豊臣秀吉の時代からではないかと言われています。もともとは寺社の依頼を受けてから職人が墨を作って納品するという流れだった墨作りですが、織田信長のの天下統一とともに寺社の力が弱まり、また、楽市・楽座政策によって墨工が墨屋として店舗を構えて商売をするかたちに移行したため、事情が一変。天正年間(1573~93年)には奈良の製墨業「古梅園」の初代松井道珍が事業として確立させ、江戸時代中期には奈良町付近に40軒近くの墨屋が立ち並ぶまでに発展していったのです。
墨を取り巻く事情も時代ごとに変わっていき、産業が衰退する時期もありましたが、今日も質の高い墨づくりは継承され、全国シェア約90%を誇っています。

General Production Process / 制作工程

奈良墨 - 制作工程

  1. 1.膠(にかわ)を溶かす 湯煎して膠を溶かします。 熱湯を沸かした釜の中に、膠と水を入れた器をつけて湯煎で溶かします。
  2. 2.練り合わせ 膠が溶けたら、煤と練り合わせます。煤、膠液、香料を撹拌機に入れて粗く練り、餅のようになったらもみ板の上で手もみ、足練りでよく練り上げます。
  3. 3.型入れ 練り上がった墨玉をちぎって天秤ばかりで計量し、さらによく練り、木型に入れてプレス機にかけて圧縮、墨の形を作ります。
  4. 4.乾燥 木灰を広げた紙を敷き、木型から出した墨を並べ、さらに紙を敷き、木灰を載せます。
    表面は乾燥しやすくひび割れするので、少しずつ水分の少ない灰に取り替えながら、ゆっくりと全体を乾燥させていきます(7~20日間)。
    ある程度堅くなった墨をわらでくるんで天井から吊し、さらに30~90日間乾燥させます。
  5. 5.水洗い・磨き 墨が乾き上がったら、乾燥中に付着した灰やわらを水洗いして、上薬をかけます。
    墨の表面仕上げには、つや消しの「生地仕上げ」とハマグリ貝でつやを出す「光沢仕上げ」があります。
  6. 6.再乾燥 磨き終わった墨は再び乾燥室に入れ、井型に桟積み(さんづみ)して1カ月寝かせます。
  7. 7.仕上げ 表面の文字や絵柄に彩色し、箱に詰め包装して完成です 。

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