駿河雛人形

駿河雛人形 スルガヒナニンギョウ

ふくよかで、やさしさ溢れる存在感
きらびやかな生地で豪華絢爛な装束を纏う雛人形

Description / 特徴・産地

駿河雛人形とは?

駿河雛人形(するがひなにんぎょう)は、静岡県の静岡市とその周辺の地域で作られている人形です。
駿河雛人形の特徴は、人形の中心部である胴体に太い稲わらが使われているので、人形のサイズが大きいことです。これは、静岡市とその周辺の地域で米の生産が盛んに行われていたことから、稲わらが手に入りやすかったためと言われています。
人形の衣装が上下別々に製作されていることで、衣装にボリュームをもたせることができ、豪華な仕上がりになります。また、上下を分業で製作することができますので量産化が可能になり、上下一体で製作される京都製の雛人形をしのいで、雛人形の胴体では全国の生産量の約7割となっています。また、雛人形製作で最も職人の技術が問われるのが、人形の両手を曲げる工程です。この工程は「振り付け」と呼ばれていますが、ひと目見て誰が振り付けしたかわかるほど、個性の表れるところです。

History / 歴史

駿河雛人形の歴史をひもとくと、そのルーツは2つの天神人形にあります。一つは、桐の木片を練って固め、筆で彩色した煉天神(ねりてんじん)。この人形は、天神と呼ばれる菅原道真公を模り、信仰の象徴として製作されました。もう一つは、江戸時代に製作された、駿河独特の「衣装着雛天神」です。衣装着雛天神の一番古いものは、1853年(嘉永6年)に製作されています。この二つが、駿河雛人形の起源と言われているものです。
また、江戸時代には、京や江戸から駿河に集まった職人が、京雛、江戸雛の技術や意匠を持ち込み、駿河独自の技術との融合により、質の高い雛人形が製作されていきました。その後、立天神、立雛のほかに、若夫婦の親王雛や老夫婦の高砂などの人形が、節句人形として製作され、江戸時代後期には、立雛天神や内裏雛、五月人形も製作されるようになりました。そして、以降は、三人官女や五人囃子なども含めた15人揃の、華やかな段飾りが登場します。
2015年(平成27年)現在の静岡県には、3月の節句の際に5月の節句も兼ねて、男の子のいる家庭で、内裏雛とともに雛天神や五月人形を飾る風習が残っており、駿河雛人形の由来となっています。

General Production Process / 制作工程

  1. 1.わら胴寸法切り 最初に人形の胴体です。駿河雛人形独特のわら胴は、稲わらをしっかりと固く巻き、その上に紙を巻いて、乾燥させてから一体ごとの大きさに切り分けます。
  2. 2.削り 胸の部分に傾斜をつけるなど、人型になりやすいように包丁で切り、整えます。
  3. 3.胴組(どうぐみ) 木毛(もくめん)を紙で円錐状に巻いて腕を作ります。木毛とは、杉や檜、松を細く削って乾燥させたものです。この腕と針金を、わら胴に通します。膝と円座の足の部分も作って取り付けます。
  4. 4.着せ付け 駿河雛人形の装束の生地には、「西の西陣、東の桐生」と言われ、並び称される高級織物、「西陣織」と「桐生織」などを使用します。西陣織は、京都の北西部の西陣で製作される先染め織物、桐生織は、群馬県桐生市で製作される絹織物です。雛人形の伝統の装束にふさわしい柄や文様、色であることを基準に選びます。
    和紙や洋紙で作った型紙に糊をつけ、生地の裏側のほうに袋張りに貼りつけます。袋張りのほうがしなやかな仕上がりになるので、縫い合わせや着せ付けの際に扱いやすいからです。糊が乾いたら、型紙にそって生地を裁断します。
    裁断した生地を、ミシンと手縫いで仕上げて着せ付けます。部品の種類は、殿と呼ばれるお内裏さまが、束帯や裾(きょ)、袴などです。姫と呼ばれるお雛様は、単衣(ひとえ)、五衣(いつつぎぬ)、打衣(うちぎぬ)、表衣(おもてぎぬ)、唐衣(からぎぬ)、 裳(も)、引腰(ひきごし)、袴などです。単衣は当時2~3枚重ねて着用したので、合わせて十二単衣と呼ばれていました。装束の着せ付けには、「にかわ」という古くから使用されてきた接着剤を使用します。
  5. 5.腕折り(振り付け) 振り付けとは、人形の両手を曲げる作業です。この振り付けで、人形全体のイメージが決まります。藁胴に取り付けてある両手は、最初は左右にまっすぐ伸びていますが、これを曲げて形を整えます。お内裏さまは男性らしく力強く、お雛さまは女性らしく優しく見えるよう、熟練の技が必要です。両手に通した針金は、一度折り曲げたらやり直しがきかず、失敗できない工程ですので、特に集中して作業します。職人の個性や技術の差が出るところです。
  6. 6.頭(かしら)つけ 人形の頭がぐらつかないように、しっかりと取り付けます。もう一つ大切なのは、人形の目線です。人形の目線には、大きくわけて2種類あります。一つはまっすぐに前を見るような目線、もう一つは、床に座って雛飾りを眺める人と目が合うような、少し下向きの目線です。お内裏さまとお雛様だけでなく、三人官女や五人囃子なども、それぞれの役割に合わせて目線の位置を決めます。
  7. 7.完成 最後に小道具です。お内裏さまには、冠(かんむり)、冠の後ろの薄く透けた羽根のような纓(えい)、髻(もとどり)を収める巾子(こじ)、冠を髪に固定するための笄(こうがい)を付けます。また、儀式の必要事項を記した笏(しゃく)、儀式用の剣である飾剣(かざたち)、剣を装束に付けるための帯である平緒(ひらお)も付けます。

    お雛様には、おすべらかし(大垂髪)を留めるための釵子(さいし)、額櫛(ひたいぐし)、宮中の作法を記した檜扇(ひおうぎ)を付けます。これで、駿河雛人形の製作は完成です。

Leading Ateliers / 代表的な製造元

望月人形 モチヅキニンギョウ

昔ながらの桐塑による頭や稲ワラを使った胴体など、昔から伝わる伝統技術や技法、材料で一つ一つ魂を込め人形を製作しており、オーダーメイドもご希望に応じて制作しております。

  • 創業
    1936年 (昭和11年)
  • 定休日
    無休(12月~4月※元旦、2日は定休日) 火・日(5月~11月)
  • 代表
    望月 明
  • 営業時間
    10:00~18:00
  • 住所
  • HP
  • 電話
    054-376-0010
  • 見学
    可 / 事前連絡必要。制作現場の見学は夏場のみ。店舗の見学は自由。

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