川辺仏壇 写真提供:川辺仏壇協同組合

川辺仏壇 カワナベブツダン

弾圧の歴史に隠された美しき伝統
妥協のない技術と信仰の継承

Description / 特徴・産地

川辺仏壇とは?

川辺仏壇(かわなべぶつだん)は、鹿児島県南九州市川辺町周辺で作られている仏壇です。
川辺仏壇の特徴は、「ガマ戸」と呼ばれる川辺仏壇オリジナルの独特な仏壇があることです。”ガマ”とは、鹿児島県の方言で洞窟を表します。
浄土真宗(一向宗)が弾圧された時代、洞窟などに隠れて念仏を唱えるようになったため、この場所は「かくれがま」と呼ばれました。ガマの中では、狭い場所でも礼拝ができるようにと台座と仏様本体が一体化した「ガマ壇」という仏壇が造られるようになります。
また、隠れキリシタンが仏壇にマリア像を隠して信仰していたように、川辺界隈では一見箪笥に見える、扉を開くと豪華絢爛な金色の隠し仏壇が造られていたと言われ、「ガマ戸」にもこのようなガマ壇や隠し仏壇の要素が受け継がれているそうです。
「ガマ戸」以外には「三法開き」、「胴長」、「半台付」、「別台付」という様式もあります。材料には杉や松が使われ、川辺仏壇は天然本黒塗りと金箔で仕上げた木地に、美しい彫刻が施された小型の仏壇として長い礎を築いてきました。
この技術は仏壇だけに留まらず、祭事の神輿、近年ではカフェや九州新幹線つばめの内装に活かされ、信仰という域を超えた技術と言えるでしょう。

History / 歴史

薩摩半島中部を流れる万ノ瀬川の源流の一つ、清水川ほとりの崖には約500mに渡って仏像が彫り込まれている「清水磨崖仏群(きよみずまがいぶつぐん)」と呼ばれる史跡があります。1264年(弘長四年)から明治時代まで供養塔や仏像、梵字などが彫り込まれ続けたそうです。
川辺街周辺は古くから仏教信仰の強い地域でした。12世紀初期には仏壇が作られていたと言われており、現存する最古のもので”1336年(延元元年)9月6日”と記された黒塗りの位牌があるそうです。
1597年(慶長2年)に薩摩藩は、浄土真宗禁制に乗り出しました。加賀一向一揆や石山合戦(浄土真宗本願寺派勢力と織田信長の闘い)の影響で、大名たちが浄土真宗を恐れ始めたためです。約300年続いた弾圧の中で人々は、洞穴や洞窟に隠れ念仏洞と言われる集会所を作り、仏像や六字名号(南無阿弥陀仏)を隠しあらゆる手段で隠して信仰をより強いものにしていきました。
1876年(明治9年)に信教が解禁されると仏壇製作も盛んになります。1975年(昭和50年)、川辺仏壇は伝統的工芸品として指定され、その技術は全国に知れ渡るようになりました。

General Production Process / 制作工程

  1. 1.木地(きじ) 仏壇本体である木地の材料には厳選されたスギ・マツ・ヒバ・ホオノキなどが使用されます。約6ヶ月ほど天然乾燥された木材は、一尺ごとに目盛りを書いた尺杖という角材を使って切断し、それぞれ用材に適するように切り取っていきます。(木取りの工程)さらに2ヶ月ほど乾燥させ、木地や部品のサイズに切り取り加工します。仕上削りを行い、製作する仏壇の規格の寸法に誤差がないか確認したら、本体を組み合わせて木地は完成です。川辺仏壇の本体は簡単に分解・組み立てできる作りになっており、補修が楽になるように組み合わせの際にも配慮がなされています。
  2. 2.彫刻(彫刻) 彫刻を施す部分の寸法を測って木取りをします。その部分に合わせて図柄を決め、下書きをします。ノミや小刀を用いて彫っていくのですが、金箔押しをする部分などを考慮しながら作業は進められます。次の工程に支障を生じる恐れがあるので、細かく丁寧に寸法の狂いが出ないように彫らなくてはいけません。また、台木は接着剤を使い竹串などで結合させます。
  3. 3.宮殿(くうでん) 宮殿は小さな格子を組み上げて造られており、使用する竹串は充分に乾燥し、防虫処理を行います。宮殿は竹串を外せば簡単に分解できるのですが、本組構造で正確に屋根と柱を保持する川辺仏壇独特の構造を用いているそうです。
  4. 4.金具(かなぐ) 金具の素材には、銅板もしくは銅合金が使われています。木地の寸法に合わせ、鑿(のみ)で図案を入れていきます。純金メッキで着色して表面加工し、金具を取り付ける釘なども同様に表面加工を施します。
  5. 5.蒔絵(まきえ) 漆塗装した木地に精製漆で下地を描きます。その上に純金粉を蒔き、天然青貝で平描き(一番描き)を行い、再度粉蒔き、平描き(二番描き)を行います。もう一度粉蒔きをし、仕上げ描き、粉蒔きを終えたら黒仕上げをし、乾燥させて蒔絵は完成です。これらは全て手描き、手作業で行われます。蒔絵には、図柄の部分だけ摺り漆をして研磨した「平蒔絵(ひらまきえ)」と図柄部分を浮き彫りにし、盛り上げて表現した「高蒔絵(たかまきえ)」があります。
  6. 6.塗装(下地) 下地は膠(にかわ)と胡粉(ごふん)を練り合わせたもので、ヘラ付けを重ね、漆塗装しやすいように木地を整えていきます。下地は複雑で熟練を要する工程です。
  7. 7.塗装(上塗り) 完全に下地を乾かしてから上塗りの作業に入ります。下地を更に固める中塗漆を施したら研磨し、もう一度中塗漆を塗り、水研ぎをします。良質な天然漆を用いて上塗りをしたら乾燥させて上塗り工程は終了です。
  8. 8.金箔押し(きんぱくおし) 一定期間乾燥され、箔押漆を擦り込まれた漆塗装部分に、純金箔を箔押ししていきます。箔押し前の漆の塗布加減でツヤ出し押しとツヤ消し押しという技法があります。金箔の合わせ目を揃えながらゴミが入らないように一枚ずつ箔箸で持ち上げ、丁寧に押し付けていくという緊迫する作業です。
  9. 9.組立て・完成 塗装や金箔押し工程が終わり、完全に乾燥したら慎重に組み立てて川辺仏壇の完成です。

Leading Ateliers / 代表的な製造元

久保仏具

創業以来、先代から受け継いだ匠の技で仏壇造り一筋に製造・卸・販売を手がけております。

大阪屋仏壇店 オオサカヤブツダンテン

伝統工芸品である川辺仏壇の認定を受け、仏壇・仏具の製造販売をしています。

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