- 金工品
- 熊本県
肥後象がん ヒゴゾウガン
漆黒の地金に浮かぶ金銀の文様
武家文化の繁栄を映す奥ゆかしい美
Description / 特徴・産地
肥後象がんとは?
肥後象眼(ひごぞうがん)は熊本県熊本市で作られている金工品です。かつては銃身(じゅうしん)や刀鐔(かたなつば)などに施される装飾として発展してきましたが、今では装身具やインテリアなどの装飾品としてその技術が受け継がれています。
肥後象眼の特徴は、武家文化を反映した「重厚感」と「上品な美しさ」です。深い黒地に金銀の意匠が映える象眼の美しさは派手さを抑えて品格を漂わせています。
肥後象眼には「布目象眼(ぬのめぞうがん)」「彫り込み象眼(ほりこみぞうがん)」などの技法がありますが、現在行われているのはほとんどが布目象眼です。布目象眼は地金として使用する鉄の表面に細い切れ目(布目)を入れ、そうして出来た溝に金銀の金属を打ち込んでいく技法です。肥後象眼では地金に塗料等を使わず錆色だけで深い黒色に仕上げることで地金の美しさを引き出すことや、金銀の厚み、縦・横・斜めの4方向から切る布目の切り方、肥後独自に受け継がれる文様などにより特徴である「重厚感」や「上品な美しさ」を表現しています。
History / 歴史
肥後象眼の始祖は江戸時代初頭の鉄砲鍛冶である林又七と言われています。林又七は元々加藤清正に仕えていましたが、1632年(寛永9年)加藤家改易の後、変わって肥後藩主となった細川忠利に仕職しました。
林又七は京都で布目象眼の技術を習得すると銃身に九曜紋や桜紋などの象眼を施すようになります。その後も林又七によって施された象眼の優れた技術は数々の名品を生み、肥後象眼として受け継がれていきました。
肥後象眼が発展した背景には忠利の父である細川忠興の存在もあります。風雅を好む忠興は鍛冶である平田彦三などの名匠をお抱え工とし、刀剣金具制作などの金工技術を競わせました。このようにして肥後象眼は細川家の庇護を受け、武家社会の隆盛と共に洗練された技術として発展していきます。特に幕末には林又七の再来と呼ばれる名人「神吉楽寿」が出現し、肥後象眼は不動の地位を築きます。
しかし明治維新によって廃刀令が発布されると刀剣金具の需要が無くなり、肥後象眼も衰退の憂き目にあいます。しかしながら装身具や茶道具等に技術の転用を図ることで再び活路を見出し、その伝統の技術は現在に受け継がれています。
Production Process / 制作工程
- 1.生地作り 鉄の板を切り、ヤスリで形を整えます。
- 2.生地磨き 鉄の表面をヤスリで磨き、表面の錆や汚れを落としていきます。
- 3.生地の準備 松ヤニと砥粉(とのこ=石の粉末)を混ぜて作った「ヤニ台」という作業台に生地を固定し、さらにヤスリやサンドペーパーで表面が滑らかになるまで磨きます。
- 4.下絵描き 象眼する図柄や配置を決めたら、筆を使って生地に下絵を描きます。生地に直接描く場合もあれば、薄紙に描いた下絵をタガネを使って生地に移し取る場合もあります。図柄によって作品の魅力や独自性を表現する大切な工程です。
- 5.布目切り 金槌(かなづち)とタガネを使い、縦・横・斜めの四方向に刻み目を入れます。1ミリ四方に16本くらいという細かい溝を刻み、溝の深さも縦が一番深く、横が一番浅くなるように調節します。
- 6.型抜き 象眼に使用する文様のパーツを作ります。象眼に使用する金属は金・銀・青金(金と銀の合金)です。ローラーを使って一定の厚さに伸ばしますが、その厚さは京象眼に比べて約4倍です。その厚みによって肥後象眼の特徴である重厚さが表現されます。伸ばした金属板から文様を型抜きし、皿にのせて火にかけます。この工程を「なまし」と言い、焼くことで金属の伸びがよくなり、生地との密着度が高まる効果があります。
- 7.打ち込み 「なまし」をした金属板に鹿の角を当て、金槌で叩いて布目(地金の刻み目)に打ち込んでいきます。布目が透けて見えるようになるまで丁寧に打ち込みます。
- 8.叩き締め はみ出た金属板を図柄どおりに切りそろえ、金属版の表面を専用の金槌で滑らかになるまで叩きます。布目が消え、地金と金属板がしっかりと密着します。
- 9.磨き 表面をこすって磨き、さらに鹿の角で叩き締めます。
- 10.布目消し 布目消し棒という鉛筆状の鉄の棒を使い地金に残る不要な布目を押し潰して消していきます。布目が潰れたら「キサキ」という道具で表面を削り、滑らかにします。
- 11.磨き 生地の表面が元通りの滑らかな状態に戻るまで、数種類の磨き棒を使って磨きます。
- 12.毛彫り はめ込んだ金属板のパーツを毛彫りタガネを使って文様の細部を整えます。毛彫りを行ったら研磨剤で表面を磨いて仕上げます。
- 13.錆出し(さびだし)の準備 磨きが済んだ生地はヤニ台から外し、付着したヤニや汚れを落とします。水で薄めた硝酸(しょうさん)液に入れ、表面がうっすら曇ってきたら次にアンモニアで中和し、水で流します。この工程によって地金の表面がざらつき、錆がきれいにのるようになります。
- 14.錆出し 「錆液(さびえき)」という錆出し専用の液を生地にまんべんなく塗ります。その後炎に当てて焼くことで錆を出していきます。焼いたら冷まし、乾燥させて再び錆液を塗り炎に当てるという作業を繰り返します。温度や湿度によって錆の出方は変わるため、全体にムラなくきれいな錆が出るようにします。
- 15.錆止め 一晩放置した生地をお茶で煮出します。茶葉に含まれるタンニンが鉄の酸化を中和し錆止めとなり、また錆を黒く変色させ肥後象眼独特の深い黒色となります。30分ほどお茶炊きしたら水で冷やし、水気が切れたら炎に当てます。白い煙が出たらおろします。
- 16.焼き付け 油煙(ゆえん)を混ぜた椿油を塗り再び焼き付けます。焼き付けを繰り返すことで表面に被膜が作られ錆を止めることができます。最後に椿油で磨き、金銀の文様をきれいに出します。また、ぼかしや彫刻など最終的な加工を施して仕上げます。
- 17.組立 金具の取り付けなど、最終的に商品として仕上げます。
- 18.完成 金具の取り付けが終わったら完成です。
Representative Manufacturers / 代表的な製造元
肥後象嵌 関光輪 ヒガゾウガン セキコウリン
肥後象嵌の技法は「布目象眼」が中心で、縦・横・斜目の四回にわたって布目切りを行う事が特徴です。金線で唐草・枯木・葛菱などの、独自の文様を表現し、現代に受け継いでおります。
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創業1962年 (昭和37年)
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定休日日曜祝日
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代表関 維一
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営業時間9:00~17:00
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住所
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電話096-338-9040
Facility Information / 関連施設情報
熊本県伝統工芸館
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住所
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電話096-324-4930
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定休日月曜日(祝日または休日の場合は、その翌日) 年末年始(12/28~1/4)
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営業時間9:30~17:30
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アクセス電車:JR鹿児島本線 「熊本駅」下車後、バスまたは路面電 車に乗り換え12分 バス・路面電車:「市役所前」下車徒歩5分 熊本城周遊バス「伝統工芸館前」下車 車:熊本インターチェンジから25分
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