喜如嘉の芭蕉布 写真提供: 沖縄観光コンベンションビューロー

喜如嘉の芭蕉布 キジョカノバショウフ

沖縄の風土が育んだ素朴な味わい
すべて手作業で生み出される幻の織物

Description / 特徴・産地

喜如嘉の芭蕉布とは?

喜如嘉の芭蕉布(きじょかのばしょうふ)は、沖縄県北部の大宜味村(おおぎみそん)喜如嘉で作られている織物です。芭蕉と呼ばれる大きな植物から繊維を取り出し織られたもので、沖縄では古くから着物の生地として親しまれてきました。
喜如嘉の芭蕉布の特徴は、風通しのよいさらりとした生地であることです。薄く張りがある布は「トンボの羽」とも形容され、体に張り付きにくく、湿気の多い沖縄で珍重されました。沖縄では自生している芭蕉ですが、喜如嘉ではより良質な糸を採るために栽培を行い、剪定を行うなどして糸を採取するまでに3年を要します。
収穫された芭蕉は手作業で下処理を行い、糸に加工します。一反の芭蕉布を織るのに掛かる時間は芭蕉の採取から約3ヶ月、必要な芭蕉の木は60本にも及びます。こうして糸芭蕉の栽培から染め織りまで、地元の素材を使い一貫した手作業で行われる織物は国内でも少なく、喜如嘉の芭蕉布が幻の織物と呼ばれる所以となっています。

History / 歴史

喜如嘉の芭蕉布 - 歴史 写真提供: 沖縄観光コンベンションビューロー

芭蕉布は古くから沖縄で作られてきた織物で、一説では13世紀頃から作られていたと言われています。琉球王朝時代には王族や貴族が上質の芭蕉布を身に付けるため、王府内に「芭蕉当職(ばしょうとうしょく)」という役職を設け、王府専用の芭蕉園を管理していました。
時代が進むにつれ、芭蕉布は庶民も身に付けるようになり、沖縄の各地の家庭で自家用に生産されるようになります。1895年(明治28年)には、喜如嘉の女性が無地や縞模様がほとんどだった芭蕉布に絣模様(かすりもよう)を取り入れたことをきっかけとなり、工芸品として発展するようになります。
喜如嘉では農業の副業として芭蕉布の生産が盛んとなり、品評会でも優秀な成績を収めるようになりました。1939年(昭和14年)には東京三越で特産品即売会に出品し、喜如嘉の芭蕉布は注目を浴び、広くその名を知られることとなります。戦時中は生産中止を余儀なくされましたが、終戦した1945年(昭和20年)には直ちに生産を再開し、意欲的に芭蕉布の復興に取り組みました。
1972年(昭和47年)に芭蕉布は国の無形文化財に指定され、喜如嘉は芭蕉布の里として貴重な織物を現在に継承し続けています。

General Production Process / 制作工程

喜如嘉の芭蕉布 - 制作工程 写真提供:沖縄観光コンベンションビューロー

  1. 1.糸芭蕉の栽培と苧(うー)はぎ 丁寧に栽培され、収穫された芭蕉の皮を手作業で剥いでいきます。玉ねぎのように層になった幹を小刀で外側から一枚ずつ剥ぎ、用途によって4種類に分けていきます。一番外側の硬い皮は、タペストリーなどの小物用に用います。内側にいくほど繊維は柔らかくなり、着物に向いています。一番内側の皮は染色用に使われます。
  2. 2.苧炊き(うーたき) 「苧剥ぎ」で剥いだ皮を大鍋いっぱいの木灰汁で煮ます。アルカリ性の木灰汁で煮ることで芭蕉の繊維を柔らかくすることが出来ます。木灰汁の濃すぎるとアルカリが強すぎて糸が切れてしまい、また薄すぎるとなかなか柔らかくなりません。木灰の濃度の調整はベテランでも注意を要する作業です。
  3. 3.苧引き(うーびき) 木灰汁で炊き柔らかくなった芭蕉を竹で出来た専用の道具でしごき、表面の皮をこそげ落とします。すると中から光沢のある繊維が現れます。柔らかいものは織物の横糸用に、硬いものは縦糸にそれぞれ仕分けられていきます。表面を引き終わった糸は風の当たらない場所で乾燥させます。
  4. 4.苧績み(うーうみ) 乾燥させた糸を「チング」と呼ばれる小さな玉に巻き取り、一本一本をつないで長い糸にする行程に入ります。芭蕉の糸はこの時点で1.5mほどですが、この作業によって織りに用いる長い糸に整形します。結ぶ目をなるべく目立たないように手作業で紡ぐ作業は、大変な根気と緻密さが要求され、芭蕉布の出来を左右する重要な作業となっています。
  5. 5.撚り(より)かけ、整経(せいけい) 糸を染める前に糸に撚りをかけ、糸の毛羽立ちを取り除きます。霧吹きで糸を湿らせながら撚りをかけたら、糸の長さを綺麗に整えます。
  6. 6.絣結び 糸をピンと横に張り、染めない部分に芭蕉の皮を巻きつけて、その上から紐で縛って固定します。縛り方がきつすぎると糸が切れてしまい、緩すぎると染まってしまうので力加減が難しい作業です。
  7. 7.染色 芭蕉布の染色には主に想思樹や琉球藍が用いられます。中でも琉球藍は常に藍の様子を管理する必要がある繊細な染料です。絣()などの模様が入る場合は模様によって糸を芭蕉の皮でしばり、模様を浮き立たせます。模様は図案の計画時に細かく設計され、規則的な配列によって模様を作り出していきます。
  8. 8.織りの準備 長い行程を得て仕上がった糸を織り機にかけ、仕上げの織りの作業に入ります。糸を織り機にかけ縦糸を巻き取り、ようやく織りの下処理ができあがります。
  9. 9.織り 芭蕉布の製作行程において、実は織りの作業は全体のわずか1%程です。また、芭蕉の糸は乾燥に弱く、晴天の日には糸が切れやすくなるため、織りに最適な季節は梅雨の時期とされています。現在では霧吹きなどで湿気を与えながら通年で織ることができますが、切れやすい糸の調子を見ながらの作業は、集中力のいる作業となります。
  10. 10.洗濯 長い行程を経て織り上がった芭蕉布ですが、このままでは糸が切れやすく製品として使用することが出来ません。仕上がった反物をしっかりとこすって水洗いした後、木灰汁で再び煮ます。続いて米かゆを発酵させた「ユナジ」と呼ばれる酸性の液に浸すことで、木灰でアルカリ性になった布を中和させます。こうして布を丈夫なものへと仕上げます。最後に布の両端をひっぱり長さを規格のサイズに整え、更に湯飲み茶碗で丁寧に布をこすることで縮れを伸ばし、貴重な芭蕉布ができあがります。

Leading Ateliers / 代表的な製造元

芭蕉布織物工房

Where to Buy & More Information / 関連施設情報

大宜味村立芭蕉布会館

大宜味村立芭蕉布会館 写真提供:沖縄観光コンベンションビューロー

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