牛首紬 写真提供:石川県観光連盟

牛首紬 ウシクビツムギ

柔らかな風合いに備わる驚異の耐久性
二匹の蚕が作る玉繭の糸を紡いだ逸品

Description / 特徴・産地

牛首紬とは?

牛首紬(うしくびつむぎ)は石川県の白山市で作られている織物です。1988年(昭和63年)に国の伝統的工芸品に指定されました。
牛首紬の特徴は2匹の蚕(かいこ)が作った玉繭(たままゆ)から糸を紡ぎ出し、糸づくりから製織までのほとんどの作業を手作業で一貫生産していることです。また、釘に引っかけても釘の方が抜けてしまうという「釘抜紬(くぎぬきつむぎ)」の別名をもつほどの丈夫さも兼ね備えています。
玉繭は糸を引くのが難しいため、従来は「くず繭」とされていました。しかし、職人の熟練の技によって直接糸を挽き出すことができ、さらに、手挽きしたことで糸に弾力が生まれ丈夫な織物を生み出すことに成功しました。
耐久性に優れながらも通気性や肌触りのよさ、また、美しい光沢があることも多くの人を惹きつける魅力で、製品としては伝統的な柄である藍染めのカツオ縞の着物をはじめ、訪問着や帯、和装小物などが作られています。さらに、最近ではパリコレクションに採用されるなど、洋装用の素材として海外からも注目されています。

History / 歴史

1159年(保元4年)に起きた平治の乱に破れた源氏の落人が白山の麓にある牛首村(旧、白峰村、現、白山市)に逃れ、同行していた妻が村人に機織りを教えたことが牛首紬のはじまりと言われています。江戸時代、幕府直轄の天領となった白峰地方は幕府の保護奨励策や商品経済の発達と相まって全国的に有名になり、牛首村の絹織物は全国に販売されるようになります。
明治以降も養蚕の奨励や紬織りの発展によって牛首紬の需要は高まり、明治時代末期には生産販売体制が本格的に確立しました。しかし、昭和10年前後をピークに断絶の危機を迎えます。和服の需要の低下や第二次世界大戦などの影響も受けて商業としての紬生産は一時、途絶えることとなり、一部の職人によって伝統的な技術を保つだけになりました。
戦後、白峰の地場産業の振興を目指す動きと牛首紬に対する熱意によって桑畑の造成や養蚕の取り組みが行われ、牛首紬を生産する工場が稼働できるようになります。1974年(昭和49年)には牛首紬のふるさとである、旧白峰村の桑島地区にあった生産工場は手取川ダムの建設に伴い他の地区や近隣の町などに移転しました。

General Production Process / 制作工程

  1. 1.まゆより 良質な玉繭を選ぶために、座繰(ざくり)製糸ができない繭を取り除く工程です。熟練した製糸工が繭を一つずつ目で確認して選別します。
  2. 2.煮繭(しゃけん) 糸が順序よく、ほぐれやすくなるように繭を煮る作業です。お湯を入れた鍋に繭を入れ、しゃもじで繭を沈めるようにしながら煮ます。次に、煮繭機を用いた水蒸気の処理と湯の中での処理を交互に繰り返します。
  3. 3.座繰製糸 座繰製糸とよばれる方法で、繭から必要な本数を合わせて一本の生糸に取ります。
    二匹の蚕が作った玉繭から糸を取るのは二本の糸が絡み合ってしまい、糸づくりが難しい作業ですが座繰製糸の方法で挽き出された糸は弾力性や伸縮性に富んだ糸になります。
  4. 4.くだ巻き 座繰製糸によって繰枠に取った糸を木製のくだに巻き取る作業です。製糸された糸に撚りをかけるまでの工程は糸が乾いてしまう前に行うことによって、よりよい糸づくりができます。
  5. 5.八丁撚糸(ねんし) 木管に巻き取った糸から八丁撚糸機で経糸(たていと)1メートルにつき280回、緯糸(よこいと)1メートルにつき180回の撚りをかけて木枠に巻き取っていきます。
  6. 6.精錬(せいれん) 生糸についた汚れや不要物を取り除くために行う作業です。湯を沸騰させ、石けんと炭酸ソーダを入れ、その中で経糸をおよそ70分間、緯糸をおよそ85分間煮ます。精錬の作業によって、絹本来の光沢とやわらかな感触を生み出すことができます。
  7. 7.糸叩き(糸はたき) 牛首紬独特の作業である糸叩き(糸はたき)をすることによって蚕の糸がもつパーマネント状のうねりを取り戻し、空気を多く含むいきいきとした糸にすることができます。撚糸や精練、糸叩きなどの一連の作業は通気性のよさや身体に馴染んでシワになりにくいという牛首紬の特性を生み出すために必要な工程です。
  8. 8.染色(先染め) 牛首紬では元来植物染料による草木染めを中心に染色されてきました。しかし、堅牢度の悪さが常に問題となり、近年では「藍染」「くろゆり染め」などのごく一部の特殊な染めを除き、退色を防ぐために化学染料も使用しています。しかしながら現在でも染色される色合いは植物染料から醸し出される色合いを基調としています。
  9. 9.糊付け 経糸に糊を染み込ませて保護する作業です。糊付けをすると、糸の毛羽立ちを防ぎ、その後の製造工程が行いやすくなります。
  10. 10.糸繰り 精錬から染色、糊付けを終えた綛(かせ)をかせ繰り機を用いて小枠に巻き取っていきます。
  11. 11.整経(せいけい) 牛首紬ではおよそ1,100本~1,200本の経糸を使用します。整経では経糸を目的の織物に合わせて必要な本数と長さに測って目的の幅に配列させます。整経本数の全部を50本一組にし、均等に尾巻に結んでドラムなどに巻き取り、製織の準備をします。整経の方法にはドラム式と経台色の二つがあります。
  12. 12.機掛け 製織の準備として行う工程です。「筬(ほさ)通し」と呼ばれる作業では、まず「綜絖(そうこう)通し台」に筬を取り付けます。次に、上と下の糸一本ずつを一組とし、筬の一束ごとに引き通して製織のできる状態にします。
  13. 13.くだ巻き 緯糸は杼(ひ)を使い、経糸の開口した中を繰り返し通して織ります。その準備として緯糸をくだに巻き取り杼の中に入れておきます。
  14. 14.製織 高機(たかはた)で手織りする作業には職人の熟練の技術、また、気の遠くなるような根気が求められます。
    また、近年では従来の高機の特長を効率的に受け継いだ独自の力織機=「玉糸機(たまいとばた)」の導入を順次すすめています。
    手機は織り手による打ち込み強さのばらつきや、打ち込みタイミングのずれが生じやすく、品質の安定を保つ上で常に悩みの種でした。このため牛首紬では、引き杼を使用した手機に近い構造でなおかつ打ち込みが安定する「玉糸機」を考案し導入。職人がそれぞれ一台を受け持ち、丁寧に織り上げます。それでも緯糸は繊度むらが多く、これらの糸を取り除く熟練の目と手技が牛首紬の品質を決定します。

Leading Ateliers / 代表的な製造元

西山産業開発 株式会社 ニシヤマサンギョウカイハツ カブシキガイシャ

Where to Buy & More Information / 関連施設情報

白山工房

  • 住所
  • 電話
    0762-59-2859
  • 定休日
    土曜日・日曜日・祝日
  • 営業時間
    9:00~16:00
  • アクセス
    【車】北陸自動車道 白山ICから60分、小松ICから60分、福井北ICから70分 【JR・バス】JR金沢駅 加賀白山バス 金沢駅→白峰北口(120分)、JR松任駅 加賀白山バス 松任(おかりや裏)→白峰北口(120分)
  • HP

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